カテナチオ

 恋人の口はかたい。
 たとえば秘密は絶対に守るし、余計な一言なんてものは彼とは無縁だ。
 それは軽口であるよりはずっと称賛すべき性質だと思う。


 情事のさなか、かたく閉ざされた唇に、啓介は思う。
 まるで鍵をかけてあるみたいだ、と。

「ほら、ここがいンだろ…?」
「っ…」

 反応が強くなる一点を、激しく腰を揺らして突き上げる。
 目の前の恋人は、まるで耐えるように歯を食いしばった。
 もっと素直に、感じるままの声を聞かせて欲しいのに。
 こうなると負けず嫌いの二人の間では、長い意地の張り合いが始まってしまう。
 それでも最後に勝つのは、啓介のほうが多かった。

「あっ、け、すけさんっ…俺、も、ああっ…」

 自分もそうだが、達する寸前というのは、口がゆるくなる。
 思うに、快感が駆け上がっていくのを、分かち合いたいのかも知れない。
 そのときが、鍵の開く瞬間なのだ。

 啓介が、ぴたりと動くのをやめた。

「え…?」

 啓介も少し苦々しい顔をして、我慢しているのがわかる。
 拓海は目元を染めたまま、潤んだ瞳で啓介に非難の視線をよこした。
 それは、見るだけで達してしまいそうなほど、みだらな表情。
 でもまだ、我慢だ。
 愛しい恋人の、かたく閉ざされたそれを、解き放つチャンスなのだから。

「……俺のこと、好き?」
「けえ、すけさんっ…」

 そんなことはいいから、とでも言いたげに、拓海の腰が揺らめく。
 啓介は自分も揺れそうになる腰をなんとか抑え、顔だけは余裕を装って拓海を見つめた。

「俺のこと、愛してる?」
「いやだ、おねがいっ、けぇすけさん!」

 ほんのりと呂律の怪しい言葉をこぼしながら、拓海はふるふると首を振る。その拍子に、ぽろりと涙がこぼれた。
 でもそれが悲しいのではなく、気持ちよすぎるためだと、啓介は知っていた。
 ほら、少しずつ、扉は開いてきている。

「俺のこと好きって、言ってみ…?」

 情けないほど困った顔は、しかし同時に、これ以上ないほど色欲にまみれた顔だ。
 今すぐめちゃくちゃにしてやりたい衝動を抑え込み、啓介は拓海の耳元に唇を寄せてから、できる限りの低い声で囁いた。

「言ってくれたら、すげえ気持ちいいことしてやるから」

 それから煽るように熱っぽい視線を送ると、拓海は観念したのか、口をへの字にしてから、ぐいと啓介の首に腕をからめ、顔を近づけた。

「…信じてくれますか?」
「ん?」
「こんなときじゃなくても、いつも思ってるんですからね」

 何のことかと思った、次の瞬間。

「愛してる」


 そういうところが、天然というか、藤原ゾーンというか。
 こんなんだから、やめられなくなるんだ。
 その唇の解錠を。


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ただカテナチオってタイトルの話を作りたかっただけ。


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